2025年7月8日、東京・丸の内で「第44回 丸の内ストリートギャラリー」のプレス説明会が開催されました。都心にありながら緑に恵まれたこの街は、日常のなかでアートと出会える “屋外美術館”として知られています。
今回は3年ぶりの作品入れ替えにより、新たに4名のアーティスト(中村萌さん、山本桂輔さん、佐藤正和重孝さん、イワタルリさん)による新作が加わりました。
中村萌さんは、柔らかな曲線と穏やかな表情が印象的な彫刻作品を手がけました。元のクスノキの形を生かした造形には、揺れ動く思考や希望を重ねており、金箔をあしらった円環やフォルムからは、空想の森に佇む“もうひとりの自分”のような存在を感じ取ることができます。モデルの女の子は、まるで中村さん本人の化身のようにも見えます。

山本桂輔さんは、地中と空をつなぐようなキノコ状の作品群を展開。都市の土壌に蓄積された見えない記憶や感情が、形を持って現れる──そんな生成のイメージから生まれた彫刻は、見る者それぞれの想像力を刺激します。素材に込められた“変化を受け入れる力”と、街との共鳴を大切にする姿勢が印象的でした。

佐藤正和重孝さんは、都会で見ることはほとんどない“甲虫”を、石彫として丸の内の街に出現させました。“ふんころがし”をはじめとする甲虫たちの生態に着目し、自然界における循環の仕組みをアートとして表現しています。虫が嫌いでも思わず見入ってしまう可愛らしい造形には、佐藤さんの子どもの頃から変わらぬ甲虫への愛とリスペクトが込められています。

イワタルリさんは、溶けたガラスに魅了された幼少期の記憶をもとに、存在感と重量感のある彫刻を制作。戦後まもなくの時代に生まれた自身の原風景を重ねながら、「存在を尊重し合う社会」への願いをガラスという繊細で力強い素材に託しています。荒々しさと静けさが共存する作品です。

4名のアーティストは皆、作品が丸の内の街に展示されることへの感謝と喜びを口にしており、街に馴染みながらも、見る人の心にそっと波紋を広げていくような存在になればと話していました。その言葉どおり、作品はいずれも静かさの中に力強さを秘め、確かな存在感をもって街と響き合っています。
日常の中のアート、丸の内に生きるアート
「丸の内ストリートギャラリー」は、1972年に三菱地所株式会社と公益財団法人彫刻の森芸術文化財団によって始まりました。以降50年以上にわたり、丸の内仲通りを中心に世界で活躍する現代アーティストの作品が展示され、街を訪れる人々にアートとの偶然の出会いを提供してきました。
展示は、大手町・丸の内・有楽町エリアにわたって全17作品が並び、そのうちの4点が新たに加わりました。歴史あるビルと新しいビルが共存するこのエリアに、現代アートがさりげなく佇むことで、風景そのものが変化し、人々の視線と意識が変わっていく──そんな都市とアートの共鳴が感じられます。
最新技術で深まる体験──MRプラットフォーム「Auris(オーリス)」導入
今回の展示では、Mixed Reality(複合現実)を活用した音声ガイドシステム「Auris(オーリス)」が導入されています。スマートフォンでアクセスすることで、位置情報に応じた音声ナビゲーションが流れ、街を歩きながらアートへの没入感を味わうことができます。視覚に障害のある方も安心して楽しめる設計で、すべての人に開かれた新しいアート体験として近年注目を集めています。
アートがある日常、アートに出会う日常
街を歩き、ふと目に入った作品に心を動かされる──そんな瞬間を提供するのが「丸の内ストリートギャラリー」の魅力です。アートは決して特別なものではなく、日常のなかに自然と存在していい。そう教えてくれるこのプロジェクトは、今回で第44回を迎えました。
都会の喧騒のなかで、ふと立ち止まりたくなるような作品たち。丸の内の風景はまたひとつ、豊かさを増していました。
■「第44回 丸の内ストリートギャラリー」概要
展示期間:2025年7月~
展示場所:丸の内仲通り、丸の内オアゾ前、一号館広場(三菱一号館美術館)
主催:三菱地所株式会社
監修:公益財団法人彫刻の森芸術文化財団
展示アーティスト:H&P.シャギャーン/イワタルリ/ウンベルト・マストロヤンニ/佐藤正和重孝/ジム・ダイン/中谷ミチコ/中村萌/名和晃平/パヴェル・クルバレク/舟越桂/ヘンリー・ムーア/マグダレーナ・アバカノヴィッチ/三沢厚彦/八ツ木のぶ/山本桂輔/ルイジ・マイノルフィ/レナーテ・ホフライト *五十音順
<丸の内ストリートギャラリー公式サイト>
https://www.marunouchi.com/lp/street_gallery/