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プリプリ食感が最高においしい。「鎌倉 波平」が生み出した「柚子生しらす」

神奈川県の湘南エリアに「柚子生しらす」という新名物があるらしい。確かにしらすは全国的にも有名な地域だけれど、柚子味なんて食べたことがない。ネーミングだけで食欲がむくむく湧いてくる。2023年5月のある日、鎌倉市腰越で「柚子生しらす」を提供している海鮮料理屋「鎌倉 波平」を訪ねた。

鎌倉駅と藤沢駅を結ぶ“江ノ電”こと江ノ島電鉄。レトロな車両が建物すれすれの場所を走り抜けたり、海沿いを走ったりすることで知られているし、人気漫画『スラムダンク』に登場する踏切を“聖地巡礼”する人も多いらしいが、「鎌倉 波平」はその江ノ電の腰越駅と江ノ島駅の中間地点、車窓からも見える道路沿いに店を構えている。

「いらっしゃい!」と店主の波木井宏幸さん(62)が笑顔で迎え入れてくれた。もともと和菓子屋さんだった店舗を改装して2015年7月にオープンした「鎌倉 波平」。テーブル席とカウンター席あわせて二十数席があり、昼間は基本的に波木井さんが一人で切り盛りしているという。

早速、お目当ての「柚子生しらす」をいただくことにした。

口に入れて、最初に感じるのはプリップリの食感。3歳の娘が釜揚げしらすが大好きなこともあって、しらすといえば専ら釜揚げしらすを食べている身としては、生しらすの食感が新鮮に感じられる。心配していた生臭さも感じない。1匹1匹にしっかり爽やかな柚の味が染み込んでいるから、醤油などを付けなくても十分。白米と一緒にかきこむのもいいが、ちびちびとお酒のあてでつまむのもいい。うん、シンプルにおいしい。

聞いて驚いたのは、この「柚生しらす」が冷凍品だということだ。しらすは別名“ドロメ”と言われるように、時間が経つとドロドロになってしまう非常にデリケートな魚らしいのだが、「鎌倉 波平」では、まず知り合いの漁師らに、上質な獲れたてしらすを漁船の上でキンキンに冷やし鮮度を保つよう依頼。そしてpH値をコントロールした特別な水と徳島県産の柚子を使用する独自の加工技術を施すことによって、柚子の味をしっかりとしらすに染み込ませ、冷凍でもまるで獲れたてのようなプリプリ感が楽しめるようになったという。

背景には、近年のしらすの不漁もあるそう。日本列島に沿って太平洋側を流れる暖流・黒潮が“大蛇行”しているため、水温や潮の流れに変化でしらすの生育環境にも影響があったのか……せっかく湘南エリアに来ても、生しらすに出会うチャンスは残念ながら減っているらしい(ちなみに毎年1〜3月中旬は環境保全のための禁漁期間なので、そもそも獲れたて生しらすは食べられない)。少しでも通年で生しらすを食べてほしいーーそんな思いから、波木井さんは冷凍品の製造に力を入れてきた。

「これが食べられるのは、うちだけだよ。お店を始めたばかりの頃は、昆布やカツオ、アゴでとった出汁で味をつけていたんだけど、もう少しインパクトが欲しいと思って、柚子を選んでみたんだ。そうしたらこれまたおいしくてね」

波木井さんは「鎌倉 波平」をオープンさせる前、仲買の仕事をしていたそうで、これまで築いてきたつながりを頼って、先に述べた独自製法を1年半かけて研究。ようやく納得のいく「柚子生しらす」を誕生させ、今ではふるさと納税の返礼品として選ばれたり、江ノ電グッズショップで販売したりと販路を着実に広げてきた。

店主のこだわりが詰まった湘南エリアの新名物「柚子生しらす」。ぜひご賞味あれ!

Information
名称/鎌倉 波平
住所/神奈川県鎌倉市腰越3-2-14
電話/0467-66-1431
営業時間/11:30~21:00 ※17時からは要予約
定休日/不定休