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食品衛生法改正により岐路に立つ「漬物」
食文化を守る取り組みとは

2021年6月に15年ぶりに改正施行された「食品衛生法」。経過措置期間の3年を終える今年6月1日から全面実施される。食中毒などから私たちの安全を守る一方で、大きな影響を受ける業者もいる。

食品衛生法の改正の影響とは

改正された食品衛生法では、漬物、水産製品、密封包装食品など、新たに保健所の「営業許可」の対象となる業種が増える。つまり「漬物」を製造して販売する場合には保健所の「営業許可」が必要になる。この「営業許可」が、生産者を悩ませている。
許可を取得するためには、衛生基準を満たす施設、食品衛生管理手法「HACCP」に沿った加工場の衛生管理、食品衛生責任者の資格取得も義務付けられる。

これにより、漬物を自宅で作り産直展で販売していた方、道の駅などで販売していた農家などは、多額の設備投資を行い新たに「営業許可」を取得するのか、製造を断念するのかを迫られる。

設備とは、専用の調理場を設けることが義務付けられる。原材料の洗浄設備(シンク)と器具等の洗浄設備をそれぞれ有するといった条件を満たす必要があり、これには多額の費用が必要になる。場合によるが、数百万がかかるケースも多いため、高齢農家の方や、ライクワークとして製造・販売に取り組む個人の方にとって、新たに製造所をつくることにはハードルもあり、投資した金額を回収できるのかも考えると、販売を断念する方も出てきている。
秋田県が2021年に行ったアンケートでは県内漬物生産者約300人のうち4割が「継続できない」と回答していたほどだ。

こうした状況を受け、高知県は、営業許可を取得するために必要な施設整備や機器の導入の費用を支援する補助金を新たに創設。「いぶりがっこ」の名産の秋田県でも県と市で設備増強に伴う費用を補助することを決めた。

「漬物」ひいては「日本の食文化」を守るための取り組みが必要になっている。

 

「梅干し」におよぶ影響を救うか?
手づくり梅干しを守る、若手の取り組み

日本の食卓に欠かせない「梅干し」にも大きな影響が出ている。法改正による影響で、製造を断念する梅農家が続出しているそうだ。
こうした中、和歌山県みなべ町の平均年齢約28歳の梅農家「梅ボーイズ」は、3月29日からクラウドファンディング「無添加梅干しの継承!全国の梅産地に梅干し製造所をつくる!」を開始。農家が梅干しの製造販売の許可を取得するために必要な要件を満たす製造所を整備していくサポートを行っていくという。

「梅ボーイズ」は、令和元年に創業、代表の山本さんのおばあちゃんの家の10畳ほどの居間で製造販売を始め、今では2年で全国100を超える店舗様で取り扱われている。そんな「梅ボーイズ」にとっても、新たな設備投資は大きな試練で、なんとか銀行を回り融資を受け、2023年に製造所を新設した。その経験を踏まえると全ての農家が対応できないと考えている。

和歌山紀南の産直市場では、昨年まで6名いた出品者が0名になるほど、製造販売を断念した農家も多くおり、これに伴い道の駅や産直に並ぶ手づくり梅干しの数も激減。
このままでは日本各地の”手づくりの味”が失われるため、今回のクラウドファンディングを始めた状況だ。集めた資金は、まずは愛知県と神奈川県で製造所をつくることに役立てられ、今後も自身のノウハウを伝えていく。

「各地域でそれぞれ大切にされてきた昔ながらの味が、今回の法整備により途絶えてしまうのは、とてももったいないことです。このままでは、日本の食文化が寂しいものになってしまいます。幸いなことに今はまだ作る人がいるので、設備の問題であれば解決して、できる限り継承していきたいと思っています。
漬物製造を続けたいけど何から始めたらいいか分からないという方がいたら、僕たちも力になれたらと思うので、ぜひお問い合わせください。できることは一歩一歩で、地域も限られていますが、ここからどんどん広げていきたいので、もしよければご支援いただけたらうれしいです」と梅ボーイズは語る。

梅ボーイズの新しい製造所

 

【梅ボーイズによる、クラウドファンディング概要】

 

期間 2024年 3月29日〜6月1日
3,000円:​​【梅干し3種食べ比べ】
110g×3種(長束梅、鶯宿梅、南高梅)
塩と紫蘇だけの梅干し

 

6,000円:​​【梅干し3種食べ比べ】
280g×3種(南高梅、佐布里梅、十郎梅)
塩だけ、または塩と紫蘇だけの梅干し

 

10,000円:​​【梅干し3 Tシャツ ステッカー】
梅干し280g×3種(南高梅、佐布里梅、十郎梅)
塩だけ、または塩と紫蘇だけの梅干しと、梅ボーイズメンバーとお揃いのロゴ入りTシャツ(サイズはS,M,L)、梅ボーイズステッカー

 

22,000円:​​【農園で南高梅収穫体験】
上限10kgまでお持ち帰り可能。
日程:6月8日,9日,15日,16日のいずれか1日
場所:https://maps.app.goo.gl/j1iQs23ReW1NS5qGA?g_st=il

 

梅ボーイズ
「日本の伝統食・梅を後世に残したい」という想いを持ったメンバーが集まる。
梅の味を生かすため、「梅・塩・紫蘇」だけで漬けた無添加の梅干しにこだわり、全国の小売店・オンラインショップで販売。昔からの伝統を大切にしながら、幅広い世代に魅力を伝えるためSNSでの梅レシピの発信やYouTubeでの動画配信を行う。

和歌山県の紀州南高梅、秋田県のいぶりがっこ、長野県の野沢菜漬け、大阪鶴橋のキムチなど、日本全国で「漬物」の文化は根付いており、食卓には欠かせない。私たちの健康を守る法律とはいえ、産直施設や道の駅から姿を消すだけでなく、作り手も失われていくことから「食文化」の喪失にまでつながりかねない。

各自治体やJAなどが支援を行っている一方で、梅ボーイズの取り組みのように伝統食を守る動きも出てきている。一つの農家だけでは対応が難しいことに対して、危機を乗り切る取り組みや支援の輪にも目を向けたい。

梅干しが好きな方はクラウドファンディングのページを覗いてみてはいかがだろうか。