東京駅丸の内口から地下道を歩くと現れる「行幸地下ギャラリー」にて、今年も「アートアワードトーキョー丸の内(AATM)」が開幕しました。19回目を迎える2025年は、全国18校からノミネートされた146点の中から厳選された20点が展示され、9月8日(月)の開幕式では表彰式も行われました。
会場は東京駅と丸の内の主要ビルを結ぶ地下通路。日常的に多くのビジネスパーソンや観光客が行き交う場所を舞台に、現代アートの最前線を紹介することで、街そのものを美術館に変える試みが続けられています。

若手アーティストの登竜門としての役割
AATMは2007年にスタートし、新たな才能の発掘を目的に開催されてきました。これまでの受賞者の中には、国内外で活躍を続けるアーティストも少なくなく、若手の登竜門として美術関係者や学生から高い注目を集めています。
「卒業制作展の中から最も可能性ある作品を見出す」というコンセプトは一貫しており、応募作品の質は年々高まりを見せています。絵画や立体、インスタレーション、映像作品など、表現方法は実に多彩で、訪れる人々は未来のアートシーンを担う新鮮な才能と出会うことができます。

グランプリは相波エリカさん
グランプリには、東京藝術大学大学院の相波エリカさんが選ばれました。受賞作品は《serious and unimportant》。日常の光景を題材にしながらも、そこに漂う微かな不穏さや予兆を巧みに表現し、鑑賞者に現実の奥に潜む新たな視点を提示しています。
審査員の建畠晢氏(多摩美術大学 名誉教授)は「日常的な光景画に見える中に抽象的な雰囲気や微かなアレゴリーのようなものが漂っています。現実の中に潜む不穏さを感じさせつつも、全体としてはチャーミングな世界を醸し出していてグランプリにふさわしい作品と感じています。」と講評。
相波さんは受賞に際し、「大変驚いています。まだ言葉が追いつかないのですが、これまで続けてきてよかったなと思います。」と嬉しさと緊張が入り混じった感慨を述べました。

各賞の受賞者と広がる評価
今年は複数の賞を受賞した作家もおり、審査員や協賛企業・文化機関から高い評価を得たことがうかがえます。作品を通じた新しい視点や社会との関わり方が注目され、受賞者たちの今後の活躍に期待が高まります。
- グランプリ:相波エリカ(東京藝術大学 大学院)
- 審査員・今村有策 賞:江崎空悟(武蔵野美術大学 大学院)
- 審査員・木村絵理子 賞:西田咲貴(名古屋造形大学)
- 審査員・後藤繁雄 賞:楊琢(多摩美術大学 大学院)
- 審査員・小山登美夫 賞:橘葉月(京都市立芸術大学 大学院)
- 審査員・建畠晢 賞:橘葉月(京都市立芸術大学 大学院)
- 審査員・藪前知子 賞:和田竜汰(東北芸術工科大学 大学院)
- 薄久保香 賞(ゲスト審査員賞):松浦美桜香(多摩美術大学)
- Deloitte Private 賞:中村夏野(京都市立芸術大学 大学院)
- フランス大使館 賞:和田竜汰(東北芸術工科大学 大学院)
- OCA TOKYO 賞:楊琢(多摩美術大学 大学院)
- 三菱一号館美術館 賞:吉田鷹景(京都市立芸術大学)

さらに、会場にはスマートフォンアプリ「PINTOR(ピントル)」が導入されています。作品解説を読むだけでなく、アーティストへ質問を投稿して直接回答を得られる仕組みや、来場者同士で感想をシェアする機能があり、鑑賞体験がより深く、インタラクティブなものへと進化しています。
サテライト展と新しい鑑賞体験
今年は特別展「AATM2025 サテライト展」も開催されています。第1回AATM(2007年)の参加者であり、現在も第一線で活躍する薄久保香さんと谷口真人さんの作品が展示され、若手からベテランへと成長したアーティストの歩みを感じることができます。会場は三菱一号館美術館のEspace 1894で、9月23日(火・祝)まで公開されています。
丸の内の街とアートの融合
丸の内エリアは、長年にわたり「アートと街づくりの融合」に取り組んできました。彫刻を街路に展示する「丸の内ストリートギャラリー」や、ビルの公開空間での文化イベントなど、オフィス街の風景に芸術を組み込み、ビジネスだけではない多様な魅力を発信しています。
その一環として開催されるAATMは、都市空間を美術館へと変える象徴的なイベントです。多忙なビジネスパーソンが足を止め、学生や観光客がアートに触れる場を提供することで、丸の内は「働く街」から「文化を発信する街」へと進化し続けています。
未来を担う才能との出会い
アートアワードトーキョー丸の内は、単なる展覧会にとどまらず、若手アーティストの才能と社会をつなぐ実験場でもあります。日常の空間で現代アートに触れることで、訪れる人々は新しい感性に刺激を受け、自分自身の視点を揺さぶられる体験を得ることができます。
過去の受賞者がその後国内外でキャリアを築いてきたことからも、このアワードが新しい才能を見出す場であることは明らかです。未来の巨匠たちの初期作品に出会える貴重な機会として、今年も多くの来場者を魅了しています。
丸の内が創り出す「街とアートの出会いの場」。その中から次世代のアーティストが羽ばたいていく日も近いかもしれません。

<ART AWARD TOKYO MARUNOUCHI 2025(AATM2025) 概要>
- 会期:2025年9月8日(月)~9月23日(火・祝) 11:00~20:00
※最終日は18:00まで - 会場:行幸地下ギャラリー(東京駅丸の内地下道)
- 入場料:無料
- 主催:三菱地所株式会社
- 協賛:Deloitte Private、コクヨ株式会社、大和証券グループ、能美防災株式会社、丸の内熱供給株式会社
- 後援:三菱一号館美術館、在日フランス大使館、アンスティチュ・フランセ東京、OCA TOKYO、TOKYO MX
- 公式サイト:https://www.marunouchi.com/pickup/event/7303/
【ギャラリーツアー】
AATM2025参加アーティストが、自身の作品について会場で解説します。
各日参加アーティストが異なりますので、詳細はWebサイトをご覧ください。
日時:9月13日(土)、9月23日(火・祝) 15:00-16:30
集合場所:行幸地下ギャラリー(東京駅側エスカレーター上)
※同時開催:「AATM2025 サテライト展」
- 会期:2025年9月8日(月)~9月23日(火・祝)10:00~18:00(会期中無休・入場無料)
- 会場:三菱一号館美術館 Espace 1894
- 出展アーティスト:薄久保香、谷口真人