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毎日使いたい。暮らしに寄り添う「宮島杓子」

職人の手から作り出された丁寧な仕事の逸品。日々の暮らしを豊かに彩るそれらは、数年前から多くの人の注目を集めている。器や調理器具、数多ある中から、毎日のご飯時に使いたい「しゃもじ」をご紹介する。

なぜ「杓子」が宮島の名産として有名になったのか

厳島神社詣りの玄関口、宮島桟橋。参拝客の流れから一本外れ、宮島の街並みを散策していると宮島の名産「宮島杓子」を作っている工房、宮島工芸製作所がある。

創業は明治の中頃、現在は4代目が運営している。

そもそも、なぜ宮島の名産として杓子(しゃくし)が有名になったのか。

厳島神社が鎮座する宮島は、島自体が “神の島”。 稲作や畑作を行うことは禁じられていたため、島としての産業がなかった。そんな中、江戸時代後半に宮島神泉寺の僧・誓真という人が弁財天の夢を見て、弁財天の持つ琵琶の美しい線から杓子を考案したのが「宮島杓子」のはじまりだという。厳島神社の建築に携わる宮大工や修理を行う職人が片手間ででき、その出来の良さから産業として発展。宮島詣りのお土産として人気となった。

ちなみに、“杓子(しゃくし)” と“杓文字(しゃもじ)” の違いは、ご飯専用かどうかということ。ご飯専用の杓文字と違い、杓子は、小皿のような頭に柄を付けたものであり、ご飯と汁をすくうのにも用いられる。宮島では、ご飯をよそう杓文字を ”杓子” と呼んでいるそうだ。

宮島工芸製作所で作るしゃもじは、近隣の地域から入手できるサクラの木を使用する。材質としてのサクラは、丈夫でキメが細かく、長く使用しても減りが少ない。輸入材木の中にはもっと丈夫なものもあるというが、安定的に近隣の山々から良質な木材を手に入れることができるので、サクラを使用しているという。

「手に取りやすい価格で、長く大事に使えるものを作っていきたい」作り続ける職人の想い

実際にしゃもじを作る工房を見せていただいた。木のいい香りに満ちている。

対岸にある木材屋さんが製材し数ケ月乾燥させたサクラの木にしゃもじなどの型を書き、切り出し、形を整え、磨いて仕上げる。しゃもじを作るのに使う型は3つ。一人がすべての工程を担うのではなく、分担して作業を行っていく。仕上げの磨きは、習得するのにも作業を行うにも時間を要するのだという。職人の手で丁寧に磨かれたしゃもじは、曲線と木目が美しい唯一無二の逸品である。

宮島工芸製作所では、しゃもじの他にバターやジャム用のヘラ、調理用のターナーなどを作っている。丈夫なため普段使いとしてガシガシ使える。サクラの木は、長く使うと経年劣化で赤みが増し、味わい深くなってくる。長く使用すればするほど手に馴染んで愛着も増していくだろう。「手に取りやすい価格で、長く大事に使えるものを作っていきたい」という想いで、作り続けている。

言うなれば、しゃもじとはただ ”ご飯をよそうもの” である。毎日迎えるその暮らしの中の一瞬に自分のお気に入りのものを使うことは、暮らしに色を添える。まずは手に取って、その使い心地と美しさを実感していただきたい。

Information

名称/宮島工芸製作所
住所/広島県廿日市市宮島町617
電話/0829-44-0330

公式サイト/http://miyajimakougei.com/