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津軽では「朝ホルモン」がモーニング!?既存の概念をぶっ壊す 青森県民のユニークな朝ごはん

2023年3月はじめ、最強ともいわれる寒波が襲来していた青森県。城下町、りんごや桜で知られる弘前市の駅前のホテルを早朝にチェックアウトし、雪道をおそるおそる車で走ること20分……。「ミツケルニッポン」編集長、カメラマン兼デザイナー、編集の奈良岡の3人は昨晩の痛飲で重たい頭と胃を気にしながら、津軽平野の中央である板柳町方面へと向かっていました。目的は朝食です。もはやかけそばぐらいしか受け付けない3人は何を食べようと車を走らせているのでしょうか?

のどかな田園地帯に突如現れた朝営業の焼き肉店、
「けんちゃんホルモン」とは

弘前生まれ、弘前育ち。両親も同様の生粋の津軽っ子である編集の奈良岡は、大学進学とともに上京。東京での生活のほうが長くなってしまいましたが、年に3回以上は欠かさず帰省してきた郷土愛の強い人間です。

おまけに、食べるのも飲むのも大好きなので、地元のグルメ事情にもそこそこ精通していると思っていました。でも、完全に盲点だったのがここ――「けんちゃんホルモン」です。「朝カレー」でも「朝ラーメン」でもなく「朝ホルモン」。確かに、津軽の人たちはホルモン好き。特に牛や豚のさがりという横隔膜パーツは、幼少のころからよく食卓に上がっていた記憶があります。でも、朝から食べるものではなかったような。

マッキー牧元さんや栗原心平さんといった著名人にも愛されているけんちゃんホルモンは、弘前市内ではなく郊外。周辺は、冬以外は田んぼやりんご畑が広がり、冠雪の岩木山が空に映える、非常にのどかなエリアです。

イエローと黒のシンプルな看板が、白銀の世界に映えています

お店に入るまで、3人の頭の中は「朝からホルモンか……。どちらかっていうと虹のマートのアキモトで津軽そばなんだけどなぁ」と、煮干しや昆布で出汁をとったそばつゆの香りを欲していました。

※虹のマート:弘前駅前にある食品市場。地元の人たちはもちろん、津軽グルメを愛する全国の人たちのパワースポット

田舎にポツンと建つのどかな商店、といった趣のお店のドアを開けると、店名のけんちゃん本人らしき男性が迎えてくれました。けんちゃんホルモンはタバコ屋さんを兼ねており、テイクアウトのホルモンが並ぶガラスのショーケースやコーヒーマシーンも。

店主のけんちゃんこと小野健嗣さんは、若いころはダンプの運転手をするなど関東でアグレッシブに働いていたけれど、地元・弘前に帰ってきてけんちゃんホルモンをオープンしたそうです。朝ホルモンはけんちゃんが広めた局地的かつ新スタイルのモーニング(!?)で、「朝から美味しいホルモンを食べられるお店」として地元民の間で評判を呼んでいました。

小野健嗣さん。コテコテな津軽弁で、朝からとにかく明るい、クセつよな津軽のおじさん

メニューの短冊はシンプル。チャーシューメンやラーメンも、絶対に美味しい

メニューは「豚ホルモン」「豚さがり」「牛カルビ」「牛バラ」の4種類。朝はいつも軽めに済ませる3人でしたが、ここまできたら全種類網羅しないわけにはいきません。

一皿一皿がボリューミー。左下の豚の横隔膜にあたる“豚さがり”は津軽の人たちの大好物

「豚ホルモンから牛バラまで、全種類ください!」と注文すると、けんちゃんは「ご飯は? うぢでつぐってる米だからおいしいよ」と。味の深いホルモンに白いご飯の組み合わせは間違いなく最高ですが、寝起きの胃が受け付けるかな~という心配も杞憂に終わりました。

けんちゃんが自分たち家族で食べる用に作っているお米を炊いた白いご飯はさっぱりした味わいで、脂が多くジューシーなホルモンや牛肉によく合います。頭も胃もすっかり元気になり、食欲もアップ。

「これも食べてみて」とけんちゃんが持ってきてくれたのは、メニューになかった塩だれの豚ホルモン。「うう、食べられるかな~」と思いつつ、焼きあがった一切れを口に含むと、塩のシンプルな味わいながら噛むほどに肉汁が溢れてきて、新鮮な内臓の旨味が口の中に広がります。「う、うま~~~~~! ヤバい、止まらない」と、3人のご飯茶碗は空っぽに。

つけだれにはけっこうな量のにんにくが使われているそうです。煙からも美味しそうなにおいが……

美味しさの秘密は何といっても鮮度。青森県産の牛や豚の食肉加工所に赴いてこまめに仕入れているそうです。「さばいたばっかりの新鮮な内臓は湯気が出ていて、ほんのりあたたかかったりするよ」と、けんちゃん。

朝からホルモンもアリでした。
人生を満喫する秘訣がここに!?

最初は懐疑的だった朝ホルモン体験。身も心も美味しさに溶けかかっていた刹那、けんちゃんは「これも合うんだよ!」と日本酒の瓶を抱えてきました。朝から日本酒!?

「わだしはもっぱら、辛口なの。ふだん『陸奥八仙』飲んでる。ちょっと試してみて!」とグラスに注いでくれるけんちゃん。運転担当のデザイナー以外の2人は戸惑いつつも楽しさでニヤニヤしながら「陸奥八仙」を口に含んでみたところ、キレがあるのに香りもよく、上品。ホルモンやカルビ、バラ肉の脂を膨らませつつ、舌から全身へ流してくれます。「日本酒とホルモンって合うんだ!」という新たな発見が。

考えてみると、青森県民はそばつゆに焼きそばをいれてみたり、味噌ラーメンにカレーと牛乳を入れてみたり、ざるそばの麺を中華麺にしてみたりと、アンタッチャブルな一面があります。よく言えば、既成概念にとらわれないチャレンジャブルな県民性。田舎だけど、保守的じゃない。けんちゃんホルモンの「朝ホルモン」が誕生したのもうなずけます。

とはいえ「朝ホルモン」と聞くと、冒頭の私たちのような反応をされる方が多いかと思います。でも、こてこての津軽弁のけんちゃんと世間話をしながら(おすすめの日本酒が出てくるかも!?)シンプルに美味しいご飯とお肉、ホルモンをほおばることの至福は一見に如かず。

ほほえましい仲良し夫婦のけんちゃんと奥さん

朝からホルモン食べたって、日本酒飲んだって、いいじゃないですか。青森にいるんだもの。

大げさかもしれませんが、朝ホルモン体験によって、自分を縛っていたものから解放されるようなワクワク感がありました。特に、旅行で青森に来たならば、こうした地元密着型の非日常感は素敵な思い出になります。

車移動は必須ですが、弘前にお越しの際は素泊まりにして「けんちゃんホルモン」でモーニングするのはいかがでしょうか。

Information

名称/けんちゃんホルモン
住所/青森県弘前市楢木用田181-3
電話/0172-98-2751
営業時間/6:00〜18:00LO(不定休)