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陸奥湾のホタテ貝殻をアップサイクル。 塗ると“青森”を感じる 自然派ネイルポリッシュとは?

青森県は食材が豊富な県ですが、特産品として陸奥湾産のホタテを思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。
食べて美味しいホタテの貝殻を使って、イノベーティブなアイディアで商品化に成功した津軽の女性たちがいました。青森市内でホタテの生産・加工を手掛ける水産会社、株式会社山神。水産会社は男性が多そうなイメージですが、この会社では女性社員たちによって構成された新規事業チームが活躍しているのだとか。彼女たちがゼロから作り出した話題の商品は、ネイルポリッシュ。誕生にいたるまでのストーリーや今後の展開についてお話を聞きました。

ホタテの生産・加工という主力事業からのスピンオフ

青森はホタテの養殖が盛ん。下北半島と津軽半島に囲まれた陸奥湾で年間8万トン近くのホタテが養殖されています。豊富なプランクトンで自然に近い形で育つホタテの美味しさは全国区ですが、貝殻の行方について知る人は多くありません。多くは産業廃棄物として処理され、一部は建築材料やカルシュウム原料、アスファルトや抗菌・消臭剤、食品添加物などにリサイクルされています。

加工につかったホタテから排出される貝殻は年間約5万トンもの量に

1973年に青森市で創業された株式会社山神は自社で生産・加工する膨大なホタテの残渣である貝殻のリサイクルという課題感を常に抱えており、社員120名のなかから女性社員6名だけのプロジェクトチームを発足。どうすれば地球にやさしい、サステナブルな活用ができるか?――結果として誕生したのがネイルポリッシュでした。

陸奥湾のホタテの貝殻が原料。トルエンなど有害物質を使っていない、子どもや入院中の方、妊娠中の方でも安心して使える優しい水性ネイル。写真は「水縹(みなはだ)」(1850円、税込み)

水産会社は男性が多そうなイメージですが、この会社では女性社員たちが8割を占めるのだとか。生鮮食品を扱う業務ゆえに、衛生面から従業員たちはネイル禁止。でも女性ですから、休日や特別な日におしゃれはしたいですよね。

「すぐおとせる、体や心にやさしい1日だけのネイルポリッシュがあったら喜ぶ人たちがいるのでは」

プロジェクトチームがたどり着いた最適解は「ホタテの貝殻を活用したネイルポリッシュ」。ホタテという強みがあるからこその、いわゆるスピンオフ。しかも、SDGsやサステナブル、エシカル消費という世界の潮流にも合っています。

しかし、アイディアが生まれて商品化するまでの道のりは随分ハードだったようで……。

ツテも知識もゼロから始めたMADE IN青森のネイルポリッシュづくり

今回、お話をお伺いした山神のCYANプロジェクトチームのリーダー、玉熊さんは3年前を振り返って苦笑いします。

「弊社は水産加工の会社なので、基本は卸なんです。食品会社にはルートがたくさんあっても美容業界にはみんな疎くてツテもない。まったくゼロからのスタートでした」

発足後は、OEM(受注製造)している会社に片っ端から電話をかけて、このプロジェクトに共感してくれるパートナーを探す日々。暗中模索で、はたから見るとテレフォンアポインターのようにいつも受話器ばかりを持っていたといいます。しかも、玉熊さんは事務職も兼務というように、メンバー全員が通常業務も同時並行していました。

何度も心が折れそうになったものの、ようやく思いに共感してくれる会社に巡り合いました。何度か東京出張してはテクスチャーや色を研究し、本社に持ち帰ってはプロジェクトチームのみんなとディスカッション。

みんなの想いが一致した、納得のネイルポリッシュ第一号は穏やかな陸奥湾の海をイメージした「水縹(みはなだ)」。陸奥湾は、青森の魚介に関わる山神社員にとって原点です。商品名である「CYAN(シアン)」にも懸かる、鮮やかなブルーに仕上げました。

色のイメージは「晴れた日の陸奥湾」。パートナー企業に海の写真を送って何度もニュアンスのすり合わせをしました

制作過程のコミュニケーションにも、青森らしさが詰まっています。毎年厳しい冬に耐える青森の人たちは「じょっぱり(頑固を意味する津軽弁)」という言葉もあるように、自分が大切に思うことに関してはこだわりが強い傾向があります。全員が理想のネイルポリッシュ完成のため、知らないことばかりの美容ジャンルであっても決して妥協はしませんでした。

「この成分だけは入れたくない、とか譲れない部分はパートナー企業の担当者にしつこく電話したりしていましたね。でも、『これ入れないと爪につかないよ』と冷静に返されたり」(玉熊さん)

商品化に向けて現実的なところは受け入れながら、「トルエンなど7種類の有害物質は使わない」といったところは徹底的に交渉。ネイルのオフにも除光液を使用せず、爪に負担がかからないようにしました。使用するホタテの貝殻の加工にも、妥協という文字はありません。

あのきれいな発色の陰には高い加工技術と深いホタテ愛があった

白にグレージュが混じった色合いで、いろいろくっついてカルシュウム化しているホタテの貝殻が、なぜこんなに白く粒子の細かい粉になるのでしょうか?

「ホタテの貝殻は、ネイルポリッシュに使う白い粉になるまではかなりの工程を要します。天日干しした貝殻を洗浄・粉砕して高温で焼いて塩味を除去、細粉してまた寝かせ……。3年寝かせたらまた高温で焼きますが、企業秘密の部分もあります」(玉熊さん)

ぶっちゃけ、廃棄するよりもコストがかかっているのでは?

粒子を細かくすることでポリッシュに粘度が増し、有害物質に頼らなくてすみます

「そうですね。コストはかかっています。でも、自分たちが育てているホタテなので、廃棄されて終わりになってしまうのは寂しい。それよりアップサイクルされて新しい商品になるほうが嬉しいですね」(玉熊さん)

4色(卯波、水縹、海明、橙海)のほかにトップ&ベースコートとキューティクルオイルも。ポリッシュ1色が選べる「CYAN3STEPS SET(3,920円、税込み)は母の日のプレゼントにもおススメ

青森やホタテへの深い愛情、進取の気性が起点となって生まれた自然派ネイルポリッシュ。ホタテの生産・加工という主力事業と貝殻の有効活用という新規事業の両立は、なかなかできることではありません。

「水産会社の経営層にしては珍しく、弊社は専務も常務も女性なんです。女性がアイディアを出しやすいという組織カルチャーもあったから、商品化できたんだと思います」(玉熊さん)

海外でも好評で、専務と常務がフランス出張でこの商品をPRしたところ、高い評価を得たり、質問をたくさんもらったそうです。

青森で生まれ育った筆者にとっては、MADE IN青森のプロダクトが海外で高評価を得ていることに誇りを持ちますし、塗るだけで青森を感じられる郷土愛をくすぐるアイテムでもあります。

4月ごろからまたホタテの水揚げが始まりますが、これからは新鮮なホタテを口にするたびにCYANを思い出すことでしょう。

4月から新色5色が発売するそうです。今後のカラーバリエーションにも期待したいと思います。

Information

名称・・・CYAN
URL・・・https://cyan-shell.shop/