ボルネオ島と聞いて、まず思い浮かんだのはオランウータンでした。
オランウータン(Orang hutan)はマレー語で「森の人」を意味します(orang=人、hutan=森)。ヒト以外の霊長類の中で最も高い知能を持つとされ、現在はボルネオ島の熱帯雨林と、インドネシア・スマトラ島の一部に生息する絶滅危惧種です。
今回の旅で最も楽しみにしていたのが、クチン郊外にある「セメンゴ野生動物センター(Semenggoh Wildlife Centre)」でした。ここはボルネオオランウータンの保護と野生復帰を目的とした施設です。


ここは動物園ではありません。
東京ドーム約130個分に相当する約650ヘクタールの森林の中で、約30頭のオランウータンが、自由に暮らしています。
人に管理されているのではなく、自然の環境の中で生活しており、餌が不足する時期にのみ姿を現します。

ここでは、午前9時頃と午後3時頃、1日2回のフィーディングタイム(餌やり時間)が設けられています。ただし、オランウータンが出現することは保証されていません。自然の中で生きている以上、人間の都合で姿を見せるわけではないからです。
私たちが訪れたのは1月。
この時期は森に果実が豊富に実る季節で、オランウータンにとっては十分な食料が自然の中にあります。そのため、フィーディングエリアに姿を見せる確率は低い時期でもあります。

フィーディングエリアの入口には、この施設で把握しているオランウータンの個体一覧が掲示されていました。写真とともに、それぞれの名前や生年、性別、簡単な特徴が紹介されています。
顔立ちや体格、表情は一頭ごとに異なり、写真を見比べるだけでも個性の違いが伝わってきます。オス特有の大きなフランジ(頬の張り出し)を持つ個体や、まだ若く細身のメスなど、性別による特徴も視覚的に理解できます。

単なる個体数の表示ではなく、「誰がこの森で暮らしているのか」を具体的に示すボードです。名前があることで存在がより身近に感じられ、どの個体でもいいから一目会ってみたい、という気持ちが自然に湧いてきます。

スタッフの案内を受けながら、森の中で待つこと30分。残念ながらこの日は姿を見ることはできませんでした。
わずかな落胆はありましたが、同時に、ここが「見せる施設」ではないことを実感します。
観光のために飼育されているわけではなく、あくまで野生へ戻るためのリハビリセンターです。
オランウータンに出会える確率を高めるなら、果実が少なくなる4月から9月頃が比較的適していると言われています。訪問を検討する場合は、季節を意識することも重要なポイントになります。
今回オランウータンに会うことはできませんでしたが、「また訪問する理由」ができました。
自然は予定通りにはいきません。
その不確実さこそがボルネオの森の本質なのかもしれません。
会えなかったという体験も含めて、ボルネオの森を思い出すきっかけになりそうです。
