マレーシアでは、思っていたよりお酒に出会いません。
レストランやカフェ、コンビニを見渡しても、アルコールを扱う店は限られています。人口の60〜70%がイスラム教徒の国であることを考えれば、当然のことなのですが、日本から訪れると少し不思議な感覚になります。
そんな中で出会ったのが、サラワク州の地酒「トゥアック」でした。
もち米を発酵させて作るライスワインで、アルコール度数は15度前後。どこか日本酒に似た風味を持ちながら、ほんのり甘さがあります。
ボルネオ島の先住民族イバン族の間で受け継がれてきた伝統的な酒で、イスラム文化圏のマレーシアにおいて例外的に存在する特別なお酒です。
訪れたレストランでは、レモングラスなどのハーブを加えたアレンジトゥアックも提供されていました。ラベルには先住民族をモチーフにしたデザインが描かれ、地元の若い醸造家が少量生産しているそうです。この店でしか手に入らないと聞き、思わずお土産に購入しました。
クチンの魅力は、こうした偶然の出会いにあります。
野生動物保護施設セメンゴ・ワイルドライフ・リハビリセンターでは、絶滅危惧種オランウータンの姿を期待して森へ入りました。しかし1月は果実が豊富な季節。彼らは森の奥で自由に過ごしており、姿を見ることはできませんでした。
少し残念に思いながらも、自然は人間の都合では動かないのだと実感します。だからこそ、また訪れる理由が生まれるのかもしれません。
街に戻ると、フードコートや屋台には人々が集まり、家族や同僚同士で食事を楽しんでいます。東南アジアの料理は辛いという印象がありましたが、クチンの料理はむしろ甘みのある味付けも多く、中華系文化の影響も感じられました。
外食が日常の一部として根付いている光景は、この街の暮らしの豊かさを物語っています。
屋台での食事は500〜800円ほど。ホテルも日本と比べると手頃で、円安の中でも心理的なハードルは高くありません。
派手な観光地ではないけれど、土地の空気をゆっくり味わえる場所。
クチンでの体験は、観光というより、生活の隣に少しだけ入り込ませてもらった時間でした。