2025年秋、進化を続けるマレーシアの首都・クアラルンプールを訪れました。屋台の熱気、祈りの静寂、そして最新ホテルの穏やかな時間。“観光の国”の舞台裏には、人のやさしさと都市の成熟が息づいていました。
1. 朝、湿った空気の中で
深夜便で成田を発ち、夜明け前のクアラルンプールに到着しました。ターミナルを抜けると、薄暗い空に祈りの声が響いています。ホテルへ向かう車窓からは、ビルの谷間にヤシの木が見え、街の奥では一日の始まりを告げる光が少しずつ広がっていきました。宿泊先はWTC KLの隣に建つホテル。モールやスーパーが併設され、朝から夜まで人の流れが絶えません。便利なエリアでありながら、どこか生活の匂いが残っているのが印象的でした。
2. リノベの街で味わう、混ざり合う味
旅の初日、ランチに訪れたのは〈Limapulo Baba Can Cook〉。古い建物をリノベーションした空間で、ニョニャ料理(中華とマレーの文化が融合した家庭料理)が楽しめる人気店です。カラフルなタイルや木の扉、窓から差し込むやわらかな光が、どこか懐かしい雰囲気を作っていました。観光客も地元の人も同じように笑顔で食事を楽しみ、香辛料の奥にある文化の重なりを感じさせます。店の周辺にはセンスの良い雑貨店やカフェが点在し、古さと新しさが自然に共存していました。
3. 未来を見せる都市の顔、The Exchange TRX
午後は、2023年12月にグランドオープンした大型複合施設〈The Exchange TRX〉へ。このエリアは、マレーシア政府が推進する「トゥン・ラザク・エクスチェンジ(TRX)」再開発地区の中心に位置し、KLCC(ツインタワー)に続く新たなビジネス・商業ハブとして注目を集めています。ガラスの天井から光が降り注ぐ吹き抜けの空間には、緑豊かな屋上庭園「The Exchange Park」が広がり、ローカルブランドからハイブランドまで約400店舗が出店。自然と都市、伝統と未来が共存する新しいKLの象徴のような場所です。
4. 夜の屋台街に漂う、多民族のリズム
日が暮れる頃、ジャラン・アローの屋台街を歩きました。赤い提灯の下に並ぶのは、マレー、タイ、中華、インドなど、多様な料理が集まる“食の交差点”のような通りです。香ばしい煙の向こうでは、鉄板の上で手早く焼かれる手羽先が目を引きました。この中華料理の手羽先は本格的で、屋台のレベルを超えたおいしさです。行き交う人々の言葉や音楽が入り混じりながらも、誰もが自然に共存している光景が心に残りました。
5. 祈りと建築が共存する街を歩く
翌朝は、独立広場を中心に街を歩くヘリテージツアーに参加しました。サマドビル、教会、寺院、モスク──わずか数百メートルの中に異なる宗教施設が並んでいます。それぞれの祈りが重なり合っても、街は穏やかで静か。この共存の光景こそ、クアラルンプールという都市の本質だと感じました。異なる文化を排除せず、同じ時間を分け合う。“観光の国”の根底には、そんなやさしさが流れています。
6. 最新ホテルに見た、静けさの贅沢
旅の締めくくりは、2025年8月に開業した〈パークハイアット・クアラルンプール〉。マレーシア初のパークハイアットとして注目されており、ツインタワーを間近に望む絶好のロケーションに建っています。高層階のダイニングは白を基調とした落ち着いた空間で、ラクサやインド系のビリヤニなど、多民族国家らしい料理が洗練されたかたちで提供されます。私はハンバーガーを選びましたが、肉の旨味とソースのバランスが絶妙で、これまで食べた中でも確実にベスト5に入るおいしさでした。デザートの名物・巨大ミルフィーユは、サクサクのパイと軽やかなクリームが絶妙で、旅の疲れをやさしく包み込むようでした。喧騒の街に、こんな静けさをつくり出せること。それもまた、この国の成熟の証だと感じます。
7. やさしさと熱のある街
旅のあいだに何度も感じたのは、マレーシアという国の“受け入れる力”でした。リノベ建築にも、屋台にも、最新ホテルにも、共通して流れているのは「違いを楽しむ心地よさ」です。誰もが混ざり合いながら、自然に隣り合っている。その穏やかで温かい空気こそ、いまのクアラルンプールを象徴しているのだと思います。