日本から直行便のない街へ向かうとき、旅は少し特別なものになります。
マレーシアの首都・クアラルンプールを経由し、さらに国内線を乗り継いでボルネオ島へ。
サラワク州の州都・クチンに到着したとき、ほどよい疲労感とともに「遠くまで来た」という実感がありました。

便利になった現代の旅の中で、移動そのものが旅の一部として記憶に残る感覚は、どこか久しぶりでした。
空港を出た瞬間、街の空気がやわらかいことに気づきます。
サラワク州(Sarawak)はボルネオ島北西部に位置し、マレーシア13州の中で最も広い面積を誇る州です。総面積の約67%が熱帯雨林に覆われている緑豊かな場所。今回はボルネオ島最大の都市であるサラワク州都・クチンを訪れました。
クアラルンプールの都市的な熱気とは違い、クチンには穏やかな時間が流れていました。訪れたのは雨季にあたる1月半ばのこと。湿度の高い空気に包まれながらも、不思議と落ち着いた気持ちになります。
東南アジアと聞いて思い浮かべる喧騒やエネルギーとは少し違う。
ここには、静かでのんびりとした時間があります。
小さな飲食店や雑貨店が所狭しと並ぶ繁華街や、グローバルに展開するホテルも揃い、都市としての機能は十分なのに、なぜかクチンの街は驚くほど落ち着いていました。
街の中心を流れるサラワク川と市街地の距離感も印象的。
観光のために整えられた景観というより、昔からそこにある生活の風景のようです。今回はゆっくり川辺を歩く時間が取れなかったことが、少しだけ心残りです。
クチンという名前はマレー語で「猫」を意味します。街の中心には観光客のフォトスポットにもなっている巨大な猫のオブジェが置かれていますが、実際の野良猫にはほとんど出会いませんでした。その小さな拍子抜けも、旅の記憶の一部になっています。
夜になると街は早く静まり、人通りが減っていきます。
一方で、ミュージックバーには人が集まり、地元の人たちがゆったりと夜を楽しんでいました。
ボルネオ島と聞くと、秘境やジャングルを想像する人も多いかもしれません。けれどクチンでは「島に来た」という隔絶感はほとんどありません。都市の快適さと自然の近さが、無理なく共存しています。
観光地として磨き上げられすぎていないこと。
それが、この街のいちばんの魅力なのかもしれません。
帰国してからふとした瞬間に思い出す。そんな静かな余韻を残す場所です。